梅雨明け!
6月30日〜7月1日に岩手県盛岡市で開催された獣医神経病学会2018に参加してきました。
今回のテーマは重症筋無力症と特発性脳炎でした。
重症筋無力症とは、神経から筋肉へ情報を伝達する部位の異常が原因で起こる病気で、3つの型に分類されます。
部分的に症状が出る型(局所型)では、顔の筋肉に異常が出るためまばたきができなくなったり、食道にも異常が出るため飲み込んだ食べ物が胃まで流れずに吐いてしまう(巨大食道)という症状がでます。
全身型では、体が疲れやすくなってしまうため歩き始めは普通ですが、少し歩くとふらついたりへたりこんでしまいます。
最後は劇症型というもので、急性に呼吸困難や運動障害がでます。
診断は血液検査で行い、原因となる抗体が検出できれば確定診断となります。しかしこの病気であっても血液検査で抗体が検出できないケースもあり、その場合はさらに詳しい検査が必要になり診断も困難となります。
この病気が診断された場合は内服による治療を行いますが、食道の症状が残るケースもあり、その場合はフードや水を吐くことによる誤嚥性肺炎を引き起こし死に至る場合もあります。
そのため早くこの病気を診断し、適切な治療と食事の指導を行うことが重要となります。
もう一つのテーマである特発性脳炎は小型犬で発症する病気で、若齢での発症が多いことが特徴です。そして中型〜大型犬ではほとんどみられません。
脳炎を発症するとてんかん発作や意識障害、失明など病変がある部位によって様々な神経症状が認められます。
診断は神経症状の存在とMRIによる画像診断で暫定的に行います。さらに血液検査により抗体を検出することも診断の補助になります。ただし脳の病気はその他の部位の病気と違い、組織検査が非常に困難であるため、生前に確定診断を行うことは困難です。
そして治療にはステロイドをはじめとする免疫抑制剤を用い、早期からしっかり薬を使うことがとても重要です。しかし中には治療に反応しない難治性のケースもあり積極的な治療にも関わらず死に至ることもあります。
このように特発性脳炎は怖い病気ですが、近年の研究で小麦の摂取が発症に関係している可能性がわかりました。そのため脳炎が疑われた場合は、積極的な内科治療に加えて適切な食事管理も必要となる可能性があることが新たにわかりました。
いずれも比較的まれな病気ですが(特に重症筋無力症)、特徴的な症状や好発する犬種の場合は早期に検査を行い、特発性脳炎の場合は早期の治療が、重症筋無力症の場合は自宅でのケアが重要となるため、少しでも飼い主様の力になれるよう頑張りたいと思います。
淺田慎也
今月より1カ月に2回「今月の病気」と称して当院獣医師が自分の得意とする分野で病気について解説します。
☆7月のセミナーの日程&テーマ☆
昨年話題になった僧帽弁閉鎖不全に対する治療についてのEPIC STUDY(エピック試験)の後発表されたVALVE STUDY(バルブ試験)についての講演がありました。
EPIC STUDYは僧帽弁閉鎖不全症のうちの左心房拡大及び左心室拡大もおこしている犬(ACVIM重症度分類B2の中の左心房及び左心室の拡大を呈しているもの)の治療にピモベンダンを投与すると投与しない犬よりもうっ血性心不全(肺水腫)の発症を遅らせることができるというものでした。
VALVE STUDYは僧帽弁閉鎖不全ですでに肺水腫を発症した犬を対象に行われた研究です。重症度分類ではACVIMのCに該当します。
肺水腫の治療には利尿剤が必要です。利尿剤のフロセミド、強心血管拡張薬ピモベンダン、および血管拡張薬であるACE阻害剤の3剤を使った治療が主流でした。
VALVE STUDYはこの3剤を使った治療(トリプルセラピー)に対して、ACE阻害剤を除いた2剤での治療(ダブルセラピー)の治療効果を比較したものです。
トリプルセラピーの方がより治療効果が高いだろうというおおかたの予想に反し、結果はACE阻害剤を使っても使わなくてもほとんど差がない、むしろ使わない方が少し良いのではないか、という傾向がみられました。
これを読まれると、今トリプルセラピーを受けている方が誤解をされてはいけないので補足します。
ACE阻害剤という薬は副作用もあまり起こさず、過去の研究では僧帽弁が変性していびつになるのをある程度防いでくれるというデータもあります。
肺水腫の治療中に腎不全を起こした際の腎血流を改善させる効果も期待できるので、循環器の専門医からも今使っていてコントロールされている肺水腫なら継続してもよいのではとの意見も出ています。
同じ僧帽弁閉鎖不全でもその症状の重さや合併している疾患、現在の体の状態により使用する薬は適宜調節する必要があります。
病院とおうちの方とでしっかりと情報交換をしてより良い状態で維持できるよう、治療していきたいと考えております。
阿部素子
8月14日(火)・15日(水)・16日(木)は休診となります。
急患の場合は留守番電話に診察券NO・お名前・用件を録音して下さい。
診察可能な場合は10分以内にご連絡致します。
17日(金)より通常通り診察致します。