今月の病気⑦ 猫のアトピー性皮膚炎
猫のアトピー性皮膚炎
院長(総合科)吉田俊一 獣医腫瘍認定医Ⅱ種
猫は犬と異なり、いわゆる猫のアトピー性皮膚炎を指す疾患名が統一されず「過敏性皮膚炎」、「非ノミ非食物関連性過敏性皮膚炎」、「猫アトピー様皮膚炎」など様々な呼び名があります。また、アトピー性皮膚炎で特徴的なアレルゲン特異的IgE抗体の産生や遺伝的要因が証明されていないこともその理由です。
診断
かゆみや炎症がある猫の皮膚疾患から外部寄生虫(ノミやダニ等)や感染症(細菌やカビ等)、食物アレルギー等を除いた皮膚疾患がアトピー性皮膚炎の可能性となります。
犬のような特徴的な症状である体の腹側、四肢端、趾間、目・口周囲、外耳炎等は猫にはありません。症状は多様性ですが、逆に特徴的な臨床症状が以下の4つです。
①自己誘発性対称性脱毛
②頭部・頚部のびらん
③粟粒性皮膚炎
④好酸球性肉芽腫群(無痛性潰瘍、好酸球性局面、好酸球性肉芽腫)
治療
治療には局所療法と全身療法があります。
1.局所療法
1)ステロイド外用剤
2)タクロリムス外用剤(免疫抑制剤)
2.全身療法
1)コルチコステロイド剤
2)シクロスポリン(免疫抑制剤)
3)抗ヒスタミン剤
4)減感作療法(一般的ではない)
症例
ラグドール 去勢雄 3歳6か月
顔・頭部に強い痒みを伴うびらん(ただれ)状の皮膚炎が発生(写真1)。ノミ・ダニ寄生はなく、食事は療法食(泌尿器疾患用)を食べ、環境の変更もなかった。
食物アレルギーを否定するため、アレルギー対応の療法食(低分子プロテイン、z/d)に変更、同時に猫アレルゲン特異的IgE検査を2つの検査機関で行った。
経過
食事での改善は認めず、2社のIgE検査結果では1社は正常、もう1社では3つの抗原(ダニと2種類の花粉)が陽性となり、信ぴょう性に欠ける結果となった。(下の表参照)
結果
①頭部・頚部のびらん
②外部寄生虫陰性(ノミ・ダニ)
③食物アレルギー陰性
④IgE検査確定できず
上記4つの結果よりアトピー性皮膚炎と仮診断しステロイド療法を行いました。3週間後の経過がこちら(写真2)。
好酸球性肉芽腫群である口唇部の無痛性潰瘍が出現したため、ステロイドの増量か免疫抑制剤への変更を考えました。猫はステロイドに対して低抗生(副作用が少ない)を示しますが、絶対ではありませんため今回は免疫抑制剤(シクロスポリン)による治療に変更しました。経過は良好です。
結論
猫のアトピー性皮膚炎を確定する診断方法は確立されてなく、症状や他の病気との鑑別の中で決定していきます。
治療はステロイド(通常は短時間作用のプレドニゾロン)や免疫抑制剤(シクロスポリン)に反応(効果がでる)します。今回の症例は免疫抑制剤で経過が良好になったケースです。
今後は1日1回の投薬から2日1回、さらに週2回等に減薬できる可能性があります。